痔瘻(あな痔)

男性に多い痔です。はじめに肛門周囲膿瘍を発症し、その後痔瘻へと発展していくと考えられています。

原因

肛門陰窩から細菌が入り込むと、肛門腺が化膿し、その炎症が肛門周囲に広がって膿が溜まり、肛門周囲膿瘍になります。これが自然に破れるか医療機関などで切開されることにより、膿が排泄されます。そのまま治る場合もありますが、約半数の方は膿の管(瘻管)が残った状態となります。これが「痔瘻」です。原因ははっきりしませんが、ストレスやアルコールの摂取などによる下痢が関与すると考えられています。

痔瘻(あな痔)

肛門陰窩から細菌が入り込み、肛門腺が炎症を起こして膿が溜まり、肛門周囲膿瘍を形成します。

痔瘻(あな痔)2

膿の出口(2次口)から膿が排出されるが、原発口まで通じる瘻管が残ります。

症状

肛門周囲膿瘍の場合、38〜39℃の発熱や強い痛み、肛門周囲の腫れがみられます。腫れがひどい場合は、いつも通りに座ったり歩行するのが困難になります。膿が排出されると特有のにおいのある膿が出て下着が汚れます。痔瘻に進展した場合、膿の出口がふさがり、膿が溜まると肛門周囲膿瘍を繰り返します。

診断

視診にて肛門周囲の発赤や腫脹、皮膚の2次口の有無を確認します。腫脹している部分を触れると痛みを伴うことが多いです。続いて瘻管(痔瘻)の走行を触診で確認しますが、はっきりしない場合もあります。さらに、肛門鏡検査で膿瘍や痔瘻の発生の原因となる原発口を確認することが望ましいですが、実際には確認できない場合も多いです。このため、画像診断が有用で経肛門的超音波検査(肛門エコー検査)やMRI検査が行われます。特にMRI検査はコントラストがはっきりした画像が色々な断面像で得られるため診断に特に有用と考えています。当クリニックにはMRIがありませんので、近隣の連携医療機関での撮影をお願いしております。

分類

痔瘻は、瘻管の伸びる方向により分類され、それぞれに治療法が異なります。

① 低位筋間痔瘻(単純痔瘻)

内括約筋と外括約筋との間を瘻管が下に伸びます。痔瘻の約6割を占めます。主な治療法は、瘻管が後方にある場合は「切開開放術」、瘻管が前方や後方にある場合は「括約筋温存手術」あるいは「シートン法」を行います。

低位筋間痔瘻(単純痔瘻)

② 高位筋間痔瘻

内括約筋と外括約筋との間を瘻管が上に伸びます。2次口がないため排膿されません。痔瘻の1割弱に見られます。主な治療法は、括約筋温存手術の一種である「瘻管掻破・ドレナージ手術」を行います。

高位筋間痔瘻

③ 坐骨直腸窩痔瘻(深部痔瘻)

瘻管が外括約筋を越えて、肛門挙筋の下の方まで伸び、肛門の後方を複雑に走行します。多くの場合、馬蹄型(馬のひずめのような形)を形成します。痔瘻の約3割に見られます。主な治療法は、括約筋温存手術の一種である「肛門保護手術」を行います。

坐骨直腸窩痔瘻(深部痔瘻)

④ 骨盤直腸窩痔瘻(深部痔瘻)

瘻管が外括約筋を越えて、肛門挙筋の上の方まで伸びる、ごくまれにみられるタイプの痔瘻です。治療が困難で手術により人工肛門になる場合もあります。

骨盤直腸窩痔瘻(深部痔瘻)

治療

肛門周囲膿瘍切開排膿

膿が溜まった肛門周囲膿瘍の症状が現れたら、一刻も早く皮膚を切開し、溜まった膿を出す「切開排膿」を行います。肛門周囲の皮膚、あるいは直腸肛門内の粘膜に切開を加え、溜まった膿を外に排出し、十分に膿の出口を作った後、抗生物質や鎮痛剤を投与します。この処置は外来で行うことができ、基本的に入院は必要ありません。切開排膿が遅れ、肛門周囲膿瘍が広がってしまった場合は、切開排膿時に強い痛みを伴うことが多いため、十分に麻酔をしてから行います。瘻管が残り、痔瘻になってしまった場合は、根治手術を行います。当クリニックでは、肛門周囲膿瘍の段階で痔瘻の根治手術を行うことは基本的にありません。

痔瘻根治術

切開開放術(Lay Open法)

痔瘻は、痔瘻の入り口(原発口, 1次口)と内括約筋と外括約筋の開にできる膿の溜まり(原発巣) と、そこから枝のように出ている瘻管(膿の管)、膿の出口(2次口)によって形成されています。切開開放手術では、この瘻管を切り開いて膿の入り口から出口まですべて切除します。そして自然に肉(肉芽組織)が盛り上がってくるのを待ちます。この肉芽組織は組織学的に感染や再開通(痔瘻の再発)に強い組織であるため、根治率(1回の手術で治る確率)が最も高い優れた方法です。しかし、瘻管の走る位置や深さによっては、肛門括約筋が傷つき、手術後に痔瘻が治っても、肛門の締まりが悪くなったり、肛門が変形してしまう場合があります。特に肛門の後方部であれば、この方法で肛門括約筋を切除しても肛門の機能にはほとんど影響しないと考えられています。

切開開放術(Lay Open法)

括約筋温存術

肛門括約筋を切断せず、なるべく傷つけないように行う手術法です。諸家により「くり抜き法(Coring Out)」や「SIFT・IS法」、「LIFT法」、「EACA法」、「FPOT法」、「Advancement Flap法」、「Coring Lay Open法」など様々なタイプの方法が報告されています。括約筋温存手術は、肛門括約筋への影響が少なく、手術後の肛門の機能障害も少なくてすむため、瘻管が深い位置を走るような複雑なタイプの痔瘻には効果的な手術方法です。また、瘻管が浅い位置であっても、肛門の側方や前方を走っている場合、切開開放手術では術後の肛門変形が残りやすいので、括約筋温存手術が行われます。括約筋温存と根治性は相反するため、再発を完全になくすことは現時点では困難です。手術方法によりますが、諸家の報告では、5〜20%程度の再発率の報告が多いようです。
 当クリニックでは、院長が東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターで研修を受けた際に教えて頂いた「SIFT・IS法」を基本的に選択することが多いのが現状です。

SIFT-IS法:2次瘻管を外括約筋外側で切離。肛門上皮と内括約筋間で1次瘻管を切離。硬化した内括約筋を切開(瘻管貫通部より外側)。

括約筋温存術

LIFT法:内外括約筋間で瘻管を結紮、切離。2次瘻管は掻破もしくは切除。

LIFT法

EACA法:2次瘻管を内括約筋外側で切除。肛門上皮と内括約筋間で1次瘻管を切離。

EACA法

FPOT法:2次瘻管を外括約筋内側で切除。肛門上皮と内括約筋間で1次瘻管を切離。内外括約筋間の瘻管を切除。

FPOT法

シートン法(Seton法)

瘻管の原発口から二次口へゴム糸を通して縛り、徐々に瘻管を切開して開放する方法です。前述の切開開放術(Lay Open法)を長い時間をかけて行うようなイメージです。ゴム糸を通すのみだけの手術ですので手術後の痛みは他の手術法より軽めですが、ゴム糸の締め直しや入れ替えなど、完治するまで長期間の外来通院が必要となります。ゴム糸の違和感や異物感が強い場合は、途中でゴム糸を抜去せざるを得ず、治療を完結できない場合もあります。また、クローン病に合併する痔瘻は、瘻管の走行が複雑で多発するものが多く、症状の軽減とQOL(生活の質)の改善を目的にシートン法が第一選択とされる場合が多いです。

シートン法(Seton法)

深部(複雑)痔瘻の手術法

(外肛門括約筋)外側アプローチ法

坐骨直腸窩痔瘻(III型痔瘻)と骨盤直腸窩痔瘻(IV型痔瘻)に対する手術法で、原発巣(膿瘍の溜まり)の処理を肛門管内からではなく、外肛門括約筋の外側から行う方法です。これも院長が東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターで研修を受けた際に教えて頂いた方法です。皮膚側の2次口から瘻管の切除と掻破(きれいにすること)を行い、後方の原発巣に向かうことを確認します。次に肛門後方の原発巣上の皮膚をドレナージの大きさを考慮しながら三角状に切開し、皮下脂肪の切除をすすめ2次口側から原発巣に到達し、不良肉芽の掻破と炎症部位の切除を直視下で行います。原発口の処理は肛門管内から行い、原発口から原発巣までの1次瘻管は、瘻管の性状や外肛門括約筋の硬化の程度、初発例か再発例かにより括約筋温存術式か開放術式、シートン法を選択します。

III型痔瘻(馬蹄型):原発口(1次口)から膿が入り、肛門後方の原発巣(膿の溜まり)をつくる。そこから、さらに瘻管が伸びて皮膚側に2次口ができる。

(外肛門括約筋)外側アプローチ法1

2次口から原発巣につながる瘻管を切除していく。原発巣直上にドレナージ創を意識した三角形の皮膚切開を作成し、原発巣の開放と不良肉芽の掻破を行う。

(外肛門括約筋)外側アプローチ法2

1次口から原発巣、原発口から2次口にそれぞれシートン(ゴム輪)を通し、徐々に肉芽組織が盛り上がってくるのを待つ。

(外肛門括約筋)外側アプローチ法3

Hanley法:括約筋の硬化が強い場合や再発例に対しては1次口(原発口)から原発巣に至る1次瘻管を切除するHanley法を行う場合もある。

(外肛門括約筋)外側アプローチ法4

III型痔瘻(造影MRI):坐骨直腸窩内に馬蹄型に広がる痔瘻(瘻管)を認める。

III型痔瘻(造影MRI)

IV型痔瘻(造影MRI):痔瘻(瘻管)が肛門挙筋を貫き、直腸後腔まで広がる。

IV型痔瘻(造影MRI)

 骨盤直腸窩痔瘻(IV型痔瘻)に対する手術は難易度が高く、手術を行っても難治例となる場合が多いため、当クリニックでは手術は行っておりません。骨盤直腸窩痔瘻(IV型痔瘻)と診断された場合は、肛門病専門の高次医療機関に速やかにご紹介致します。